2023 制度会計論A（学部・前期，17406教室）
¶ 2023年度シラバス：制度会計論Ａ（前期）：経営学部2年生以降に配置の専門科目（シラバス）
* シラバス（ここ）をクリックすると、青山学院大学のホームページにリンクします。
教科書：上枝正幸（2022），『経済学で考える制度会計』（中央経済社，￥3,000＋税）
教科書の誤植等の訂正・改訂はここ （Ver. 2, 2023/5/9）講義概要（日程と実施内容）
| 実施回 | 日程 | 実施内容 |
| ① | 4/6 | オリエンテーション（オンライン） |
| ② | 4/13 | 第１章「経済学的・実証的な視角・アプローチとは」 |
| ③ | 4/20 | 第２章「わが国の企業会計制度ないし財務報告規制」 |
| ④ | 4/27 | 第３章「企業会計制度ないし財務報告規制の必要性に関する議論―経済学的検討（その１） |
| ⑤ | 5/11 | 第３章「企業会計制度ないし財務報告規制の必要性に関する議論―経済学的検討（その２） |
| ⑥ | 5/18 | 第５章「経済的意思決定に有用な会計情報」 |
| ⑦ | 5/25 | 第６章「会社・経営者による自発的な情報開示（ディスクロージャー）」 |
| ⑧ | 6/1 | 第７章「利益マネジメントと不正な財務報告（その１）」 |
| ⑨ | 6/8 | 第７章「利益マネジメントと不正な財務報告（その２）」 |
| ⑩ | 6/15 | 第８章「公認会計士・監査法人による監査―経済実験による説明」 |
| ⑪ | 6/22 | 第10章「会計基準のコンバージェンスの諸問題」 |
| ⑫ | 6/29 | 第12章「制度会計の政治的側面」 |
| ⑬ | 7/6 | 「制度会計論Ａ」のまとめ（オンライン） |
| ⑭ | 7/13 | 講義内試験（対面） |
| ⑮ | 7/20 | 【予備日】追試験 |
配布資料：パスワードをかけてあるため、閲覧希望があればご連絡ください。連絡はここ。
第１回（4/6） ： オリエンテーション（オンライン）23handout-01.pdf へのリンク
第２回（4/13） ： 第１章「経済学的・実証的な視角・アプローチとは」（対面）23handout-02.pdf へのリンク
初回がオンラインであるため、実質的な初回として、講義の基本的なところをお話ししました。
50名ほどの登録者数（暫定的）となり、25名ほどであった昨（2022）年と同じ教室であること
から、やや「圧（迫感）」を覚える教室の入りでした。教科書の第１章に基づき、講義で対象とす
る制度会計の定義や、経済学を主として用いるアプローチにつき、図や例を使いながら説明すると
いうのが具体的な内容でした。「規範的」という用語と対置される「実証的」という用語の意味は
理解してもらえたでしょうか。また、経済学の考え方に関し、幾らかのイメージはもち得ていただ
いただけたでしょうか。最後に、余りに簡単な今回の講義内容の確認の問題よりむしろ、クイズの
ほうが面白そうだと考えて、２問ほど出題しました。次回の講義内にて解説することにします。
第３回（4/20） ：第２章「わが国の企業会計制度ないし財務報告規制」23handout-3.pdf へのリンク
前（第２）回の講義のあと、教務課からメールをいただき、やり取りの結果、今回から少し広い
教室（17406）にて講義ができることになりました。このため、前回よりも数名出席者が増えたに
もかかわらず、少しはゆとりのある教室内でした。今回の内容は、我が国の会計関連の諸制度の概
説でした。このあと経済学的に会計関連の諸制度を考えるにあたり、まずは現行制度をみておこう
という趣向です。（１）会社法、（２）金融商品取引法、および（３）法人税法の３つにつき、そ
れぞれ簡潔にみました。前２者（１）・（２）が開示法であるのに対し、（３）法人税法は趣を異
にすることが確認できたでしょうか。
その後、最後には、次回以降の講義のための「とっかかり」として、会館関連の諸制度の必要性
について考察し、リアクションペーパーに書いていただく課題を出しました。41名のかたの提出が
ありました。次回は、これを（も）もとに授業を展開していくことになります。
第４回（4/27）：第3章「企業会計制度ないし財務報告規制の必要性に関する議論―経済学的検討（その１）」
23handout-04.pdf へのリンク
今回は、前回のリアクションペーパーの課題である会計関連の諸制度の必要性に関する経済学
的な考察の１回目（次回と併せて全２回）。「不」必要性につき、Wolkら（2016）を参考にし
つつ3つの論点を説明しました。昨（2022）年度からの授業の改善としては、「なぜこういった
議論をするのか」、つまり会計関連の諸制度があるのが当たり前であるとはいえないことにつき、
最初に時間をかけて説明したことに尽きるでしょう。
（１）資本市場における競争の圧力、（２）エージェンシー・コストの低減、および（３）契
約による代替という3つにつき、理解していただけたでしょうか。リアクションペーパーは、講
義内容をまとめていただくものとなりました。44名のかたが提出（登録48名）。概ね伝わった
ことがわかり、ほっとしました。
第５回（5/11）：第3章「企業会計制度ないし財務報告規制の必要性に関する議論―経済学的検討（その２）」
23handout-05.pdf へのリンク
前回の「不必要性」の続きで、会計関連の制度・規制の「必要性」に関する経済学的な議論。
前回同様にWolkら（2016）を参考にして、４つの論点を参考にしました。今回も、なぜ議論す
るのか、前回の復習、必要性があるとすればどういう理由か（市場の失敗の３つ、社会目的との
齟齬の１つ、必要・不必要が決まったとしても残る課題と解決策としての「デュ―プロセス」、
わが国の基準設定機関（ワーキンググループＷＧ）の考えにつき、できる限りにおいて要領よく
説明したつもりです。事後的な課題は、必要性に関する議論のまとめ。43名のかたが提出され、
回答からは全員に伝わったことが読み取れました。
第６回（5/18）：第５章「経済的意思決定に有用な会計情報」23handout-06.pdf へのリンク
今回は、章を変え、第５章を扱いました。最初に、現行の会計が「意思決定アプローチ」を
採用していることを説明し、、国際会計基準（IFRS）とわが国のフレームワーク（討議資料）
が、「何をもって会計情報が有用である」としているのか、その質的な特性をみました。
その後、情報のモデル化に関する議論（知ることで意思決定が変わる）をしました。説明の
仕方もあったのか、危険回避的な効用関数については講義後に数多くの質問が出ました。それ
でも、「業績☞会計情報（利益）」という会計システムが有用ならば、「会計情報（利益）☞
業績」という逆の推論から、投資家ら利害関係者が意思決定を変えうる（例．テキストのモデ
ルでは、株式投資（a1）と国債投資（a2）の間の投資決定）ことにつき、一定の理解を得られ
たのではないかと考えています。実証研究のパートの説明ができなかったため、次回に実施す
ることにします。猛暑のためか？、出席が35名と普段よりもやや少なかったのが残念でした。
第７回（5/25）：第６章「会社・経営者による自発的な情報開示（ディスクロージャー）」
23handout-07.pdf へのリンク
冒頭にトラブル。持ち込んだノートPCが異音とともにシャットダウンしました。差してあっ
たUSBメモリが持てないほど熱くなっていたため、熱関係のトラブルでしょうか。困ったもの
のどうにか乗り切り、講義を開始、それでも途中では居合わせたゼミ生にノートPCを借りるこ
とになりました。講義としては、前回質問の多かった「危険回避的」な個人の効用関数を再び
説明し、前回は説明できなかった実証研究を解説。イベント研究では、イベント（利益情報開
示）が当該会社の株式リターン（資本市場の動き）につながっていれば、投資家の信念を変え
たと推測され、よって会計情報の公表が「有用」であったとされるという流れを確認しました。
続いて、第６章の自発的開示の論点。以前に会計関連の制度・基準の「不」必要性の論拠の
１つであったこと、個人的に長年研究してきているテーマであること、さらに個々人の情報が
出て来なくなった現状と企業に求められる情報開示の質・量が拡充されるという反する状況が
現在社会にはあるということを開始点としました。その後、「概念フレームワーク」の記述を
紹介し、基準の設定者側も自発的開示のインセンティブがあることを認識しているうえで、必
要な規制のありかたを考えているということを第一に解説。続いて、以前のよりかは少しは公
式に「自発的開示（アンラベリング・顕示）のメカニズム」を説明しました。その後は、実験
およびアーカイバル・データによる実証研究に触れました。最後に、自発的開示のモデルの限
界やIR活動を紹介すると、ほぼ90分の講義時間を使い切っておりました。このため、感想なり
考察なりを書いていただくことがかなわなかったが残念です。
次（８）回と次々（９）回は、「利益マネジメントと不正な財務報告」です。自発的開示の
モデルでは、「虚偽の情報開示ができない」ことが必須の要素となっていました。しかし、現
実にはかような条件は充足されず、このときどのようなことが起こるかにつき、お話しさせて
いただければと考えています。
第８回（6/1） ： 第７章「利益マネジメントと不正な財務報告（その１）」
23handout-08.pdf へのリンク
今回から２回（第８回・第９回）は、「利益マネジメントと不正な財務報告」を扱います。
ある情報を開示するかどうかの二択ではなく、どのように開示するか（内容）を考えた場合、
会計は「意思決定に有用な情報」を提供するため、あるいは「相対的な真実」をとらえるた
め（いわゆる「真実性の原則」）、ある一つの会計事実に対して、複数の認められる会計処
理の方法が存在し、よって異なる表現（報告）がなされえます。このことは、事業の言語と
しての会計のプラス面ですが、認められる会計処理の「幅」は、経営者によって裁量的に用
いられ、読み手たる利害関係者を誤導する可能性も否定できません。今回は、認められる範
囲内の経営者の裁量的な会計処理の選択行動を「利益マネジメント（利益管理・利益操作・
利益調整）」と言及しました。そのうえで、前（第７）回の自発的な完全開示のモデルと実
験の設定を「経営者は何でも開示できる」とした瞬間、均衡が求められなくなり、かつ実験
結果では「過大開示（例．100の商品価値を175と報告すること）」が一般的になるなどの
事例を紹介しました。
後半は、ゲーム理論による「プレーヤー（経営者と投資家）の利得が相手の行動にも影響」
を及ぼされる場合の分析の仕方を説明しました。まずは、囚人のジレンマ様のゲームを設定
し、「相手の行動に対する最適反応」という概念を紹介し、その重なりが「ナッシュ均衡」
と呼ばれること、「ナッシュ均衡」においては自分だけが戦略を変える誘因がないことなど
を説明し、その後スコットとオブライエン（2019，邦訳2022）のゲームを紹介しました。
そこでは、「均衡としての利益マネジメント」というのが重要な点であり、さらにもう一つ
の改訂版のゲームではどのように利益マネジメントを防ぐか（制度・規制）の解をみました。
最後に繰り返しゲームによる考察をみたあと、練習問題を解き、今回の講義は終了しました。
第９回（6/8）： 第７章「利益マネジメントと不正な財務報告（その２）」
23handout-09.pdf へのリンク
通常の講義も、あと４回（6/29迄）となりました。今回は、前回に続き、利益マネジメント
のお話でした。前回の復習および練習問題の解説をしたあと、利益マネジメントの動機の３
分類（契約・資本市場・規制）と手法２つ（会計的裁量・実体的裁量）についてみました。
今年度は、スライドも用いて、経営者報酬契約やビッグバス、債務制限条項なども解説でき
て、教員としては充実感がありました。
その後、利益マネジメントには、資本市場の誤導やライバル企業・国民などへのマイナス
の影響が予想される一方で、プラスないし一定の役割があるという、本章でしたかった主張
を紹介しました。プラスないし一定の役割とは、（１）情報提供的なもの、すなわち私的情
報の伝達であり、さらに（２）企業（と関係者）にとっての経済合理性の追及でありました。
最後に、実証研究、とくに日米のサーベイ調査の結果を紹介し、議論を締めくくりました。
単なる会計的操作のみで関係者が誤導されるのかという論点はあれど、現実世界の経営者
ら（恐らくは効果を信じて）利益マネジメントを遂行しているようですね。
第10回（6/15）：第８章「公認会計士・監査法人による監査―経済実験による説明」
23handout-10.pdf へのリンク
今回は、「監査（auditing）」のお話。最初にCPAバッジを見ていただいたり、わたし自身
が「監査」というものをよく理解せずに公認会計士になったりといった話をしました。
本題に入り、日本公認会計士協会（JICPA）が出している「監査とは」に関する解説の頁
の内容を紹介し、２つの経済ゲームを用いて、補足的な説明を加えました。ゲーム❶は、信
頼できる情報が入手できないことによる市場の崩壊を、続くゲーム➋は、信憑できる情報が
伝達できないことによる社会的非効率の生起を、それぞれ見ていただきました。とくに後者
のゲーム➋には情報「開示」が含まれていたことから、その内容を押さえておいてほしいと
ころです。
ゲーム❸は、監査報酬の設定、具体的にはいわゆる低廉監査（low-balling）の論点を解説
するためのもの。複数期間に亘るサービスの提供とそれに伴う報酬の収受がもたらしうる悪
影響―当初は安く受注し、あとで回収する―を理解してもらえたでしょうか。今年度は、昨
（2022）年度の失敗に基づき、この問題のみ「CoursePower」のアンケート機能を用いて
実施しました。最後のゲーム❹は、監査人に対する訴訟の問題を扱いました。いわゆる逐次
手番のゲームにおける「信憑性のない脅し」を見るものでした。話し終え、時計を見ると、
３限終了5分前。以前に比べると、参加型ではなくなってしまったものの、それなりに上手
く内容は伝えられたのではないかという回になりました。
第11回（6/22）：第10章「会計基準のコンバージェンスの諸問題」 23handout-11.pdf へのリンク
純粋な対面講義も残るは２回。今回は、会計基準のコンバージェンス（収斂）を扱いまし
た。最初に、独（DB）・日（レジェンド問題）の事例を扱い、会計基準が国・法域間で相
違ことがもたらした問題を解説しました。その後、会計基準の統一の歴史を語り（重要性
からすると、長すぎたかもしれないと反省）、わが国の取り組みも紹介しました。続く、
会計基準の統一に対する賛否（pros. and cons.）は、今回の主題でした。「賛」はわかり
やすいものですから、「否」のほうの４項目をおさえておいてくださいと強調しました。
今年度は時間が15分ほど余ったことから、コーディネーション・ゲームによる規格の統
一を紹介して、アンケート形式の実験にも参加していただき、解説を加えてから講義を終
了しました。
＊ 補遺としてのコーディネーション・ゲームのインストラクションはこちら
第12回（6/29）： 第12章「制度会計の政治的側面」 23handout-12.pdf へのリンク
通常講義の最終回は、制度会計の政治的側面（第12章）を扱いました。今年度からのも
のとなるため、資料は一から新しく作成。このため、少しの誤植が残るものに…。
内容は、会計規制がもたらす経済的影響、および（経済的影響ゆえの）政治的な動機の
必然的な―不自然ではない―生起をまずはみました。ただし、政治的な動機が昂じて、個
々の利害関係が全体の厚生に影響を及ぼすべく「暴走」するような事態となる、いわゆる
「会計の政治化」は問題です。
その後、政治的であるがゆえの「デュ―・プロセス」（正しい過程）の存在について触
れ、最後に日・米の「会計の政治化」（の兆候？）の事例を検討しました。経済学的視点
を扱った本講からすると異色な「政治」的なお話でしたが、いかがだったでしょうか。
＊ 補遺としてのアジェンダ（議題設定）ゲームのインストラクションはこちら
第13回（7/ 6） ： まとめ（オンライン）
試験前のまとめの回は、オンライン講義（オンデマンド型）としました。
本講の狙いや、各回の重要ポイント、次週の期末定期試験に関して計約１時間のお話を
しました。
第14回（7/13）： 講義内試験（対面）：44名が受験（名簿上の履修者は全48名）
定期試験では、各回の根本的なテーマを問いました。70点満点で平均点は約45点と悪く
はなかったですが、受講者の少なかった昨（2022）年度と比べると微減となりました。
とくに、最終の問題（【問題７】）の「監査の必要性および社会・経済的に果たしてい
る役割・機能」（配点10点）については、来（2024）年度以降の教示方法の改善を求める
出来でした。やはり、実際に実験をやるのが良いのでしょう。来年度は、頑張ってみます。
第15回（7/20）： 第14回に受験できなかった受講生（資格者は３名）向けに、追試験（対面）を実施
上記の追試験資格者３名のかたに来ていただき、追試験を実施しました。本試験（7/13）
とは異なり、記述問題のみとなりました。どのかたも相当に勉強してきていただいたよう
であり、よくできているように感じました。このあと、本試験（7/13）を含め、すべての
答案をもう一度見返してから、最終的な評価を確定することになります。
これにて今年度の本ページの更新は終わることになります。受講していただいたかたに
感謝いたします。
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