2024 制度会計論A（学部・前期，17406教室）
¶ 2024年度シラバス：制度会計論Ａ（前期）：経営学部2年生以降に配置の専門科目（シラバス）
* シラバス（ここ）をクリックすると、青山学院大学のホームページにリンクします。
教科書：上枝正幸（2022），『経済学で考える制度会計』（中央経済社，￥3,000＋税）
教科書の誤植等の訂正・改訂はここ （Ver. 2, 2023/5/9）講義概要（日程と実施内容（予定））
| 実施回 | 日程 | 実施内容 |
| ① | 4/11 | オリエンテーション（オンライン） |
| ② | 4/18 | 第１章「経済学的・実証的な視角・アプローチとは」 |
| ③ | 4/25 | 第２章「わが国の企業会計制度ないし財務報告規制」 |
| ④ | 5/2 | 第３章「企業会計制度ないし財務報告規制の必要性に関する議論―経済学的検討（その１） |
| ⑤ | 5/9 | 第３章「企業会計制度ないし財務報告規制の必要性に関する議論―経済学的検討（その２） |
| ⑥ | 5/16 | 第５章「経済的意思決定に有用な会計情報」 |
| ⑦ | 5/23 | 第６章「会社・経営者による自発的な情報開示（ディスクロージャー）」 |
| ⑧ | 5/30 | 第７章「利益マネジメントと不正な財務報告（その１）」 |
| ⑨ | 6/6 | 第７章「利益マネジメントと不正な財務報告（その２）」 |
| ⑩ | 6/13 | 第８章「公認会計士・監査法人による監査―経済実験による説明」 |
| ⑪ | 6/20 | 第10章「会計基準のコンバージェンスの諸問題」 |
| ⑫ | 6/27 | 第12章「制度会計の政治的側面」 |
| ⑬ | 7/4 | 「制度会計論Ａ」のまとめ（オンライン） |
| ⑭ | 7/11 | 講義内試験（対面） |
| ⑮ | 7/18 | 【予備日】追試験 |
配布資料：パスワードをかけてあるため、閲覧希望があればご連絡ください。連絡はここ。
第１回（4/11） ： オリエンテーション（オンライン）
第２回（4/18） ： 第１章「経済学的・実証的な視角・アプローチとは」 24handout-02.pdf へのリンク
対面の初回であり、教科書の第１章に基づき、本講の検討対象やアプローチ法に関して詳し
く説明しました。また、今年度も、市野泰和先生（2015）『心と体にすーっとしみこむミクロ
経済学』（中央経済社）を紹介しつつ、経済学的な考え方についてお話ししました。
次回も、経済学テキストから、経済学の考えを知るための事例を紹介する予定です。
第３回（4/25） ：第２章「わが国の企業会計制度ないし財務報告規制」 24handout-03.pdf へのリンク
今回の内容は、我が国の会計関連の諸制度（３つ）の概説でした。このあと経済学的に会計関連
の諸制度を考えるにあたり、まずは現行制度をみておこうという趣向です。会計に制度があるのは
当たり前という意識があると、議論自体が空回りすることから、今（2024）年度は、「どうしてか
ような議論をするのか」を最初に重点を置いてお話ししました。
そのうえで、（１）会社法、（２）金融商品取引法、および（３）法人税法の３つに関して、そ
れぞれ簡潔にみました。前２者（１）・（２）が開示法であるのに対し、（３）法人税法は趣を異
にすることが確認できたでしょうか。途中、他国ではまた違った制度であること、現在の制度は、
恐らく膨大な選択肢のうちから歴史的経路・変遷を通じて成立していることも強調しました。
その後、最後には、次回以降の講義のための「とっかかり」として、会計関連の諸制度の必要性
について考察し、リアクションペーパーに書いていただく課題を出しました。次回は、これを（も）
もとに授業を展開していくことになります。
第４回（5/2） ：第3章「企業会計制度ないし財務報告規制の必要性に関する議論―経済学的検討（その１）」
24handout-04.pdf へのリンク
今回は、前回のリアクションペーパーの課題である会計関連の諸制度の必要性に関する経済学
的な考察の１回目（次回と併せて全２回）。とくに、制度・規制の「不」必要性につき、Wolkら
（2016）を参考にして3（＋α）つの論点を説明しました。昨（2023）年度と同様に、冒頭では
「なぜこういった議論をするのか」、つまり会計関連の諸制度があるのが当たり前であるとはいえ
ず、かつ会計制度・規制の始点である米国でも1930年代半ばからであり、よって100年の歴史も
ないことにつき、時間をかけて説明しました。
その後、「不」必要論の論旨である、（１）資本市場における競争の圧力、（２）エージェン
シー・コストの低減、および（３）契約による代替という3つにつき、それぞれ説明居ました。昨
年度とは異なり、講義内容をまとめていただくようなリアクションペーパーの作成は、時間の都合
でできなかったですが、その代わりに黒板にまとめを書きました。GW期間中につき、出席が25名
と少なく残念ではありましたが、その分、来られた方には議論の内容が伝わった気がしました。
第５回（5/9） ：第3章「企業会計制度ないし財務報告規制の必要性に関する議論―経済学的検討（その２）」
24handout-05.pdf へのリンク
前回の「不必要性」の続きで、会計関連の制度・規制の「必要性」に関する経済学的な議論。
今年度も、前回同様にWolkら（2016）を参考に４つの論点を紹介しました。冒頭部分にはまた、
なぜ議論するのかを説明し、続いて前回の「不必要」論の復習、必要性があるとすればどういう
理由か（市場の失敗の３つ、社会目的との齟齬の２つ）、さらに必要・不必要が決まったとしても
残る課題、および解決策としての「デュ―プロセス」、最後に、わが国の基準設定機関（ワーキン
ググループＷＧ）の考えにつき、できる限りにおいて要領よく説明したつもりです。事後的な課題
は、必要性に関する議論のまとめ。29名のかたが提出され、そこでの回答からは全員に伝わったこ
とが読み取れました。
第６回（5/16）：第５章「経済的意思決定に有用な会計情報」24handout-06.pdf へのリンク
今回から章を変え、第５章を扱いました。最初に、現行の会計が「意思決定アプローチ」を
採用していることを説明し、それが以前の「正しい利益・真実の利益の算定」を目指すような
規範的なアプローチ国際会計基準（IFRS）とわが国のフレームワーク（討議資料）においては、
「何をもって会計情報が有用である」としているのか、その質的な特性を第一にみました。
その後、情報のモデル化に関する議論（知ることで投資家の意思決定が変わる）をしました。
昨（2023）年度は、説明の仕方のせいか、危険回避的な効用関数について講義後に数多くの質
問が出たことから、そのさいに作成したスライドを示しながら当該論点を講義しました。このた
めと思いたいのですが、危険回避的な効用関数についての質問はありませんでした。やや時間を
かけつつ、全体としては、「業績☞会計情報（利益）」という会計システムが有用であるならば、
「会計情報（利益）☞業績」という逆方向からの推論から、投資家ら利害関係者が意思決定を変
えうる（例．テキストのモデルでは、株式投資（a1）と国債投資（a2）の間の投資決定）ことに
つき、一定の理解を得られたのではないかと考えています。実証研究のパートの説明ができなかっ
たことから、次（第７）回の冒頭に実施することにします。
出席登録に関するトラブルがあり、急遽「紙」で出席をとりましたが、とあるかたが「面白かっ
た」と一言書き添えてくださっており、嬉しかったです。実際には、前列でお聴きだったかたの
「今日は難しかった」というのが多くの受講生のかたの本音かもしれません。
第７回（5/23）：第６章「会社・経営者による自発的な情報開示（ディスクロージャー）」
24handout-07.pdf へのリンク
まずは、時間の都合で前回は説明できなかった実証研究を解説。イベント研究では、イベント
（利益情報公表）が当該会社の株式リターン（資本市場の動き）につながっていれば、投資家の信
念を変えたと推測され、よって会計情報の公表が「有用」であったとされるという考え方の流れ
を確認しました。補足として、株価チャートを見ていただき、決算発表の瞬間から値動きや取引
量が大きくなることも説明しました。
続いて、第６章の自発的開示の論点。以前に会計関連の制度・基準の「不」必要性の論拠の
１つとして本講義で解説（第４回）したこと、個人的に長年研究してきているテーマであること、
さらに個々人の私的な情報が出て来なくなった社会的な現状と企業に求められる情報開示の質・
量が拡充されるという相反する状況が現在社会には存在することを議論の開始点としました。
その後、わが国の「概念フレームワーク」の記述を紹介し、基準の設定者側も自発的開示の
インセンティブがあることを認識しているうえで、必要な規制のありかたを考えているという
ことを第一に解説。続いて、以前（第４回）のものよりは少しは公式に「自発的開示（アンラ
ベリング・顕示）のメカニズム」を説明しました。その後は、実験およびアーカイバル・デー
タによる実証研究に触れました。最後に、自発的開示のモデルの限界やIR活動を紹介すると、
90分の講義時間をほぼ使い切っておりました。このため、今年度も、感想なり考察なりを書い
ていただくことがかなわなかったが残念です。
次（８）回と次々（９）回は、「利益マネジメントと不正な財務報告」です。自発的開示の
モデルでは、「虚偽の情報開示ができない」ことが必須の要素となっていました。しかし、現
実にはかような条件は充足されず、このときどのようなことが起こるかにつき、お話しさせて
いただければと考えています。
第８回（5/30）： 第７章「利益マネジメントと不正な財務報告（その１）」
24handout-08.pdf へのリンク
今回から２回（第８回・第９回）は、「利益マネジメントと不正な財務報告」を扱います。
ある情報を開示するかどうかの二択ではなく、どのように開示するか（内容）を考えた場合、
会計は「意思決定に有用な情報」を提供するため、あるいは「相対的な真実」をとらえるた
め（いわゆる「真実性の原則」）、ある一つの会計事実に対して、複数の認められる会計処
理の方法が存在し、よって異なる表現（報告）がなされえます。このことは、事業の言語と
しての会計のプラス面ですが、認められる会計処理の「幅」は、経営者によって裁量的に用
いられ、読み手たる利害関係者を誤導する可能性も否定できません。今回は、認められる範
囲内の経営者の裁量的な会計処理の選択行動を「利益マネジメント（利益管理・利益操作・
利益調整）」と定義しました。そのうえで、前（第７）回の自発的な完全開示のモデルと実
験の設定を「経営者は何でも開示できる（何も言わない＝沈黙は可）」とした瞬間、均衡が
求められなくなり、かつ実験結果では「過大開示（例．実際には100の商品価値を175と報
告すること）」が一般的になるなどの知見を紹介しました。
後半は、ゲーム理論による「プレーヤー（経営者と投資家）の利得が相手の行動にも影響」
を及ぼされる場合の分析の仕方を説明しました。まずは、囚人のジレンマ様のゲームを設定
し、「相手の行動に対する最適反応」という概念を紹介し、その重なりが「ナッシュ均衡」
と呼ばれること、「ナッシュ均衡」においては自分だけが戦略を変える誘因がないことなど
を説明し、その後スコットとオブライエン（2019，邦訳2022）のゲームを紹介しました。
そこでは、「均衡（両者の合理的な選択の結果）としての利益マネジメント」というのが重
要な点であり、さらにもう１つの改訂版のゲームではどのように利益マネジメントを防ぐか
（制度・規制）の解をみました。最後に繰り返しゲームによる考察をみたあと、某経済学の
教科書からの練習問題を解いて提出していただき、今回の講義は終了しました。
第９回（6/6） ： 第７章「利益マネジメントと不正な財務報告（その２）」
24handout-09.pdf へのリンク
通常の講義も、あと４回（6/27迄）となりました。今回は、前回に続き、利益マネジメント
のお話でした。前回の復習および練習問題の解説をしたあと、利益マネジメントの動機の３
分類（契約・資本市場・規制）と手法２つ（会計的裁量・実体的裁量）についてみました。
今年度も、スライドも用いて、経営者報酬契約やビッグバス、債務制限条項なども解説でき
ました。
その後、利益マネジメントには、資本市場の誤導やライバル企業・国民などへのマイナス
の影響が予想される一方で、プラスないし一定の役割があるという、本章でしたかった議論
を紹介しました。プラスないし一定の役割とは、（１）情報提供的なもの、すなわち私的情
報の伝達であり、さらに（２）企業（と関係者）にとっての経済合理性の追及でありました。
また、永続的（に得られる）利益こそが将来的な企業のキャッシュ・フローの予測にとって
有用であり、よって企業価値の予測にとって有用であるとするならば、利益平準化という実
務も一定の役割を果たしているのかもしれません。
最後に、実証研究、とくに日米のサーベイ調査の結果を紹介し、議論を締めくくりました。
単なる会計的操作のみで関係者が誤導されるのかという論点（効率的市場の仮説）はあれど、
現実世界の経営者らも、恐らくは効果があると信じて、利益マネジメントを遂行しているよう
ですね。
第10回（6/13）：第８章「公認会計士・監査法人による監査―経済実験による説明」
24handout-10.pdf へのリンク
今回は、「監査（auditing）」のお話。最初にCPAバッジを見ていただいたり、わたし自身
が「監査」というものをよく理解せずに公認会計士になったりといった話をしました。
本題に入り、日本公認会計士協会（JICPA）が出している「監査とは」に関する解説の頁
の内容を紹介し、その後に海外研究者による２つの経済ゲームを用いて、補足的な説明を加
えました。ゲーム❶は、情報の非対称性があるもとで信頼できる情報が入手できないことに
より引き起こされる市場の崩壊を、続くゲーム➋は、信憑できる情報が伝達できないことに
よる社会的な非効率性の生起を、それぞれ見ていただきました。とくに後者のゲーム➋には
情報「開示」の要素が含まれていたことから、その内容を押さえておいてほしいところです。
ゲーム❸は、監査報酬の設定、具体的にはいわゆる低廉監査（low-balling）の論点を解説
するためのもの。複数期間に亘るサービスの提供とそれに伴う報酬の収受がもたらしうる悪
影響―当初は安く受注しておき、あとの年度における継続取引によって損失分を回収する―
を理解してもらえたでしょうか。今年度も、一昨（2022）年度の失敗に基づき、この問題の
み「CoursePower」のアンケート機能を用いて実施しました。
最後のゲーム❹は、監査人に対する訴訟の問題を扱いました。いわゆる逐次手番のゲーム
における「信憑性のない脅し」を見るものでした。話し終え、時計を見ると、３限終了3分前。
コロナ以前と比べると、参加型ではなくなってしまったものの、それなりに上手く内容は伝え
られたのではないかという回になりました。とはいえ、昨（2023）年度は、この箇所の試験
のできが良かったとはいえないことから、次週冒頭にも簡単に触れることにします。
第11回（6/20）：第10章「会計基準のコンバージェンスの諸問題」24handout-11.pdf へのリンク
純粋な対面講義も残るは２回。今回は会計基準のコンバージェンス（収斂）を扱いまし
た。最初に、独（DB）・日（レジェンド問題）の事例を扱い、会計基準が国・法域間で相
違ことがもたらした「比較可能性」の問題を解説しました。その後、会計基準の統一の歴史
を語り（昨（2023）年度の反省踏まえ、少し短くしました）、わが国の取り組みや状況も
資料を用いて紹介しました。続く会計基準の統一に対する賛否（pros. and cons.）は、今
回の主題でした。「賛」は直観的でわかりやすいものですから、「否」のほうの４項目をお
さえておいてくださいと強調しました。
今年度も時間が20分ほど余ったことから、コーディネーション・ゲームによる規格の統
一を紹介し、経済実験による検証の結果も述べられました。もう少し時間があれば、実際に
アンケート形式の実験に参加していただけたかもしれず、来（2025）年度以降の配慮点と
します。
第12回（6/27）：12章「制度会計の政治的側面」24handout-12.pdf へのリンク
通常講義の最終回は、前年度引き続き、制度会計の政治的側面（第12章）を扱いました。
内容は、会計規制がもたらす経済的影響、および（経済的影響ゆえの）政治的な動機の
必然的な―不自然ではない―生起をまずはみました。ただし、政治的な動機が昂じて、個
々の利害関係が全体の厚生に影響を及ぼすべく「暴走」するような事態となる、いわゆる
「会計の政治化」は問題です。「政治」といっても、広狭２つの意味があるわけですね。
その後、政治的であるがゆえの「デュ―・プロセス」（正しい過程）の存在について触
れ、最後に日・米の「会計の政治化」（の兆候？）の事例を検討しました。経済学的視点
を扱った本講からすると異色な「政治」的なお話でしたが、いかがだったでしょうか。
＊ 補遺としてのアジェンダ（議題設定）ゲームのインストラクションはこちら
第13回（7/ 4） ： まとめ（オンライン）
試験前のまとめの回は、昨年度に引続き、オンデマンド型オンライン講義としました。
本講の狙いや、各回の重要ポイント、次週の期末定期試験に関して計約１時間のお話を
しました。
第14回（7/11）：講義内試験
予定通り、講義内試験を実施。37名が受験（全42名）。体調不良等で受験できなかった
かたについては、次週（7/11）の同時刻・同じ場所において追試験を実施予定です。
第15回（7/18）：講義内試験（予備日➩ 追試験）
体調不良等で本試験を受験できなかったかたを対象として、追試験を実施。
今年度の予定をすべて終了しました。受講いただいたかたに感謝いたします。
¶ 過年度分は以下からリンクするようになっています。
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