制度会計論A（学部・前期，17401教室）

¶ 2022年度
　シラバス：制度会計論Ａ（前期）：経営学部2年生以降に配置の専門科目（シラバスＡ）
　　　　 　　　* シラバス（A）をクリックすると、青山学院大学のホームページにリンクします。

　教科書：上枝正幸（2022），『経済学で考える制度会計』（中央経済社，￥3,000＋税）
　　　　　　　 　教科書の誤植の訂正はここ　（Ver. 1, 2022/5/10）

　講義概要（日程と実施内容）　

実施回	日程	実施内容
①	4/7	オリエンテーション（オンライン）
②	4/14	第１章「経済学的・実証的な視角・アプローチとは」
③	4/21	第２章「わが国の企業会計制度ないし財務報告規制」
④	4/28	第3章「企業会計制度ないし財務報告規制の必要性に関する議論―経済学的検討（その１）
⑤	5/12	第3章「企業会計制度ないし財務報告規制の必要性に関する議論―経済学的検討（その２）
⑥	5/19	第５章「経済的意思決定に有用な会計情報（その１）」
⑦	5/26	第５章「経済的意思決定に有用な会計情報（その２）」
⑧	6/2	第６章「会社・経営者による自発的な情報開示（ディスクロージャー）」
⑨	6/9	第７章「利益マネジメントと不正な財務報告（その１）」
⑩	6/16	第７章「利益マネジメントと不正な財務報告（その２）」
⑪	6/23	第８章「公認会計士・監査法人による監査―経済実験による説明」
⑫	6/30	第10章「会計基準のコンバージェンスの諸問題」
⑬	7/7	まとめ・第12章「制度会計の政治的側面」（抄）
⑭	7/14	講義内試験
⑮	7/21	【予備日】

　
　配布資料：パスワードをかけてあるため、閲覧希望があればご連絡ください。連絡はここ。
　　　　　　　（＊ 過年度分の資料については、特段の理由がある場合にのみお見せしています。）

　 　第１回（4/7）　： オリエンテーション（オンライン）：22handout-01.pdf へのリンク
　　
　　第２回（4/14） ： 第１章「経済学的・実証的な視角・アプローチとは」（対面）
　　　　　　　　　　　　本講で議論する会計・制度会計などにつき定義し、本講が採用する分析アプローチに
　　　　　　　　　　　ついて説明しました。規範（あるべき）論ではなく、事実解明的・実証的なアプローチ
　　　　　　　　　　　ということになります。現実はこうなっている、なぜそうなっているのかなどと考えつ
　　　　　　　　　　　つ、会計関連の諸制度をみていきます。
　　　　　　　　　　　　講義の最後には、経済学の考え方を知るため、市野泰和先生のご著書の『心と体にすー
　　　　　　　　　　　っとしみこむミクロ経済学』（中央経済社、2015年）を紹介しました。
　　　　　　　　　　　：22handout-02.pdf へのリンク
　　
　　第３回（4/21） ：第２章「わが国の企業会計制度ないし財務報告規制」
　　　　 　　　　　　 　この章は、わが国の企業会計制度や財務報告規制を概説しようという意図をもって書か
　　　　　　　　　　　れたものです。また、概説と言いつつも、相応の分量があるのも実のところは重要な要素
　　　　　　　　　　　であり、可能ならば読者の方に「うんざり」していただき、それによって、「なぜこんな
　　　　　　　　　　　制度・規制があるのか（必要なのか）」という疑問が自然に湧くと良いなあと考えながら
　　　　　　　　　　　書いていました。
　　　　　　　　　　　　内容としては、（１）会社法、（２）金融商品取引法、および（３）法人税法による会
　　　　　　　　　　　計につき、それぞれまとめています。
　　　　　　　　　　　　なお、初稿（2021年春に出版社に持ち込んだ版）には、補論として、「トライアングル
　　　　　　　　　　　体制」の短い解説があったことから、ここに補足資料として（復活）公開しました。
　　　　　　　　　　　　講義終わりの小レポートとしては、「会計関連の諸制度・規制の必要性の論拠」を書い
　　　　　　　　　　　ていただきました。残り時間がなくて、深く考えてもらうことはかないませんでしたが、
　　　　　　　　　　　次回（第４回）につながる問題提起にはなったと考えたいところです。
　　　　　　　　　　　：22handout-03.pdf へのリンク
　　　　　　　　　　　★ 「トライアングル体制」（第２章の補論）：cha2-App.pdf へのリンク

　　第４回（4/28）：第3章「企業会計制度ないし財務報告規制の必要性に関する議論―経済学的検討（その１）」　　　　
　　　　　　　　　　　　この章は、本論の導入部として書いたものです。書いている途中には、必要性・「不」必
　　　　　　　　　　　要性から入って各論に続くという説明の順番が上手く決まる（はまる）とよいなあと感じて
　　　　　　　　　　　いました。今（第４）回の講義では、とくに、「不」必要性、すなわち制度・規制がいらな
　　　　　　　　　　　いとすればどういう理由かに関して、（１）資本市場の圧力、（２）エージェンシー・コス
　　　　　　　　　　　トの存在、および（３）私的な契約の３つの観点からの議論をそれぞれ紹介しました。
　　　　　　　　　　　　ないと「投資家が困る」という単純なものではなく、それよりは深い経済（学）的な理由
　　　　　　　　　　　付けが可能となればよいと考えました。
　　　　　　　　　　　　次（第５）回は、必要性に関する議論、およびわが国の概念フレームワーク（2006年版）
　　　　　　　　　　　の内容の紹介をしたいと考えています。講義を終えた後の残りの時間における小レポートは、
　　　　　　　　　　　「不」必要性の3つの論拠の説明でした。
　　　　　　　　　　　：22handout-04.pdf へのリンク
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　第５回（5/12）：第3章「企業会計制度ないし財務報告規制の必要性に関する議論―経済学的検討（その２）」
　　　　　　　　　　　今回は、前回に引き続き第３章を取り上げ、その後半を扱いました。
　　　　　　　　　　　テーマは、制度・規制の必要性に関する議論であり、前回実施の「不」必要性と対になるも
　　　　　　　　　　のです。ここでは、市場の失敗の類型としての（１）独占、（２）財務報告不正と監査の失敗、
　　　　　　　　　　および（３）会計情報の公共財的な性質という三つの要因を説明しました。さらに、社会目的
　　　　　　　　　　との齟齬も述べたあと、制度・規制の設定過程（プロセス）に関わる問題も概説し、最後にわ
　　　　　　　　　　が国の「討議資料 財務会計の概念フレームワーク」を紐解きつつ、基準設定者側の考えについ
　　　　　　　　　　て紹介しました。
　　　　　　　　　　　市場の失敗については、適宜、第４章の内容を紹介するスライドを用いて、直観的な理解が
　　　　　　　　　　可能となるように配慮したところです。前回、時間の都合で扱えなかった「補論 経済学（的思
　　　　　　　　　　考）とはなにか？」も話すことができました。
　　　　　　　　　　：22handout-05.pdf へのリンク　　　　　　　　　　　　
　　
　　第６回（5/19）：第５章「経済的意思決定に有用な会計情報（その１）」
　　　　　　　　　　　講義もはや６回目となりました。今回は、序盤に時間をかけてこれまでの流れを確認してい
　　　　　　　　　　ます（資料の第１頁）。本講のアプローチおよび概要の説明や、前回・前々回でみた「制度・
　　　　　　　　　　規制の必要性の議論」を振り返り、まとめるとともに、今後につなげようという意図でありま
　　　　　　　　　　した。いかがだったでしょうか。
　　　　　　　　　　　その後、第５章の説明に入り、２回に分けて扱うその初回である今回は、今日の財務報告の
　　　　　　　　　　第一の目的である「投資家の経済的意思決定に有用な会計情報」の提供に関して、その歴史的
　　　　　　　　　　経緯や定義づけについて解説しました。とくに、国際会計基準（IFRS）とわが国の概念フレー
　　　　　　　　　　ムワークを参照し、どのような情報を市場に提供するべく制度・規制の設定がなされているか
　　　　　　　　　　に関して理解してもらえるように配慮しました。
　　　　　　　　　　　講義後の課題（残り15分で解答）は、教科書96頁の「4」。さまざまな解答が、受講生から
　　　　　　　　　　得られました。
　　　　　　　　　　　次（第７）回は、今回の講義を受けて、第５章の「その２（後半）」を扱い、情報のモデル
　　　　　　　　　　化や実証研究の紹介などを具体的に実施する予定です。
　　　　　　　　　　：22handout-06.pdf へのリンク

　　第７回（5/26）： 第５章「経済的意思決定に有用な会計情報（その２）」　　
　　　　　　　　　　 　今回は、前回に引き続き、意思決定有用性アプローチを扱いました。
　　　　　　　　　　　しかし、前（第６）回とは文字通り「アプローチ」をガラッと変えて、情報のモデル化を通
　　　　　　　　　　じて「経済的意思決定にとって有用とは何か？」に関して議論しようとしました。このため、
　　　　　　　　　　まずは、不確実性下における個人の意思決定をモデル化し、続いて不確実性を変化させる（減
　　　　　　　　　　らす）事象としての「会計情報の入手」を導入しました。このとき、情報の入手後（＝事後的）
　　　　　　　　　　には、個人が意思決定を変える可能性があることを示すことにより、会計システムの意思決定
　　　　　　　　　　有用性の一端をみていただいたというわけです。ベイズの定理については、教科書の補論にあ
　　　　　　　　　　るものとは別に、図を用いた直感的な説明をしてみました。練習問題も併せて、理解できたで
　　　　　　　　　　しょうか。
　　　　　　　　　　　その後、会計情報の有用性を確かめるためのアーカイバルの実証研究のうち、もっとも古典
　　　　　　　　　　的なものを紹介しました。時間の都合により、以降の展開は大幅に省略しましたが、いずれは
　　　　　　　　　　この領域の研究の歴史を講義したいものです。教員としては、わかりやすく、かつ手短に伝え
　　　　　　　　　　られるよう研鑽を積んでおきたいところです。
　　　　　　　　　　：22handout-07.pdf へのリンク

　　第８回（6/2） ：第６章「会社・経営者による自発的な情報開示（ディスクロージャー）」
　　　　　　　　　　　今回は、第４回で扱った会計制度・財務報告規制の「不」必要性の根拠のうち、（１）資本
　　　　　　　　　　市場の圧力（pressure）をとくに取り上げました。特定の環境・条件のもとでは、なぜ自発的
　　　　　　　　　　な開示が生じるのか、その理論的なメカニズムをさらに詳しく説明し、その後、実験的研究や、
　　　　　　　　　　アーカイバル・データによる実証的検証の一端を解説しました。なお、配布資料としては、昨
　　　　　　　　　　今の議論となっている「四半期開示の廃止」を伝える日本経済新聞の朝刊（2022年4月14日付、
　　　　　　　　　　「四半期開示 単信に一本化 ― 政府、「報告書」に廃止検討　企業負担減、制度は維持」）も
　　　　　　　　　　用いましたが、以下からリンクする「22handout-08」にはもちろん収録していません。
　　　　　　　　　　　上記に加え、自発的開示を促すその他の力、および企業情報の開示（ディスクロージャー）
　　　　　　　　　　の実務としてのIR（インベスター・リレーションズ, investor relations）についても触れまし
　　　　　　　　　　た。IRについては、事例を紹介しても面白いかなあと講義をしながら考えていました。
　　　　　　　　　　　第４回でみたように、それでもなお制度・規制は必要であるという結論になるのかもしれま
　　　　　　　　　　せんが、ここでの議論もまた理解してもらいたいところです。
　　　　　　　　　　：22handout-08.pdf へのリンク

　　第９回（6/9）：第７章「利益マネジメントと不正な財務報告（その１）」
　　　　　　　　　　　前回までは、経済的な意思決定にとって有用な会計情報の開示の「有無（開示されるか否か）」
　　　　　　　　　　の二者択一が主たるテーマでした。しかし、容易に理解されうるように、会計情報の開示の有無
　　　　　　　　　　を超え、どのような会計情報が開示されるかも決定的に重要な論点です。さらに、会計情報は、
　　　　　　　　　　巷間いわれるように、「記録された事実、会計上の慣習、および個人的判断の総合的所産」であり、
　　　　　　　　　　よって真実な報告といっても一定の幅（latitude）をもち、作成する者によって異なる会計情報と
　　　　　　　　　　なることが当然に予想されます。
　　　　　　　　　　　第７章は、上記の「幅」がもたらす問題の一つとして、利益マネジメントやそれが行き過ぎた場
　　　　　　　　　　合の不正会計を取り扱っています。今回は、第７章の前半部分を講義内で扱い、（１）論点の詳細、
　　　　　　　　　　（２）虚偽の開示が可能である場合の前（第６）章の自発的な開示のモデルの帰結の変化、および
　　　　　　　　　　（３）囚人のジレンマ的なゲームの環境における均衡導出による「ゲームの均衡としての利益マネ
　　　　　　　　　　ジメントと不正な財務報告」という含意につき、それぞれ解説しました。最後に簡単な練習問題を
　　　　　　　　　　やったのですが、約10分ほど早く終わりました。来年度以降は、受講生に考えてもらうようにした
　　　　　　　　　　り、もう１ネタ追加で挟んでも良いのかなあと感じました。
　　　　　　　　　　　次回は、第７章「...（その２）」として、残りの頁を扱うことになります。なお、出版社持込時
　　　　　　　　　　のオリジナルの原稿において、本章には、補遺が存在し、そこではいわゆる「シグナリング」の実
　　　　　　　　　　験を取り上げていました。本ホームページにおいて陽の目をみられると良いなあと考えたこともあ
　　　　　　　　　　り、ここにPDF版を掲示しておきます。
　　　　　　　　　　：22handout-09.pdf へのリンク
　　　　　　　　　　★ 「シグナリング実験」（第７章の補論）：cha7-App.pdf へのリンク

　　第10回（6/16）：第７章「利益マネジメントと不正な財務報告（その２）」
　　　　　　　　　　　今回は、前（第9）回に引続き、利益マネジメントを扱った教科書の第７章（の後半部分）を取
　　　　　　　　　　り上げました。内容は、前回分の確認、すなわち経営者による「合理的な意思決定としての情報の
　　　　　　　　　　操作や利益マネジメント」という事象を振り返ったあと、海外専門雑誌の文献を参考にしながら、
　　　　　　　　　　利益マネジメントの3つの動機（契約関連・資本市場関連・規制関連）、および2つの方法（会計的
　　　　　　　　　　裁量行動と実体的裁量行動）をみました。最後には、利益マネジメントの功罪と称して、利益マネ
　　　　　　　　　　ジメントがされた場合の、負（－）と正（＋）の影響・効果に関して、それぞれ説明しました。
　　　　　　　　　　　とくに、後者の正（＋）の影響・効果に関しては、理解してもらいたかったところです。たとえ
　　　　　　　　　　ばそれば、情報提供的な役割であったり、また事業運営の効率化であったり、それぞれ興味深い議
　　　　　　　　　　論が存在することを理解していただければと考えていたのです。補足として、わたし（教員）自身
　　　　　　　　　　の専門ではありませんが、実証研究についても触れて、今回の講義を終えることになりました。
　　　　　　　　　　　次回は、過度な利益マネジメント、すなわち不正な会計の歯止めの一つである「監査制度」に関
　　　　　　　　　　して扱います。参加していただける内容になっているため、楽しんでいただければ良いなあと考え
　　　　　　　　　　ています。
　　　　　　　　　　：22handout-10.pdf へのリンク

　　　第11回（6/23）：第８章「公認会計士・監査法人による監査―経済実験による説明」
　　　　　　　 　　　 監査の基礎的な論点を経済実験を通して理解してもらおうという回。
　　　　　　　　　　参考にしたSchwartzら（2004）から4つの経済実験を紹介しました。1つは、監査制度の必要性に
　　　　　　　　　　つき「市場の形成」にあることを教示するもの。とはいえ、これは「出オチ」感が強く、すなわち
　　　　　　　　　　相応の知識があるとゲームとして成立しないことがわかるので解説のみ。2つ目は、監査の社会的
　　　　　　　　　　役割を説明するものであり、こちらは経営者役の学生さんの実際の「メッセージ（開示）」の信憑
　　　　　　　　　　性にかかわるものであり、監査という行為の役割や機能が良く分かるものとなっています。
　　　　　　　　　　　3つ目は、低廉監査（low-balling）、すなわち監査費用を短期的には回収できない低額での監査
　　　　　　　　　　の受注という現象の発生とそれがはらむ問題を教示するための実験。最後の実例については、講義
　　　　　　　　　　ならではの解説が加わります（本には書けません）。最後は、欧米らしい論点といえるでしょうが、
　　　　　　　　　　監査人に対する訴訟と対応の戦略についてであり、いわゆる「信憑性のない脅し」を後ろ向き帰納
　　　　　　　　　　法（backward induction）で解こうというものです。なお、このゲーム❹については、教科書で
　　　　　　　　　　は紙幅の都合で省略していました。
　　　　　　　　　　　できる限り受講生の参加をと頑張りましたが、いかがだったでしょうか。監査制度に対する理解
　　　　　　　　　　が深まったでしょうか。
　　　　　　　　　　【事後談】「教える」ことはしていても、「考える」ことはしてもらえていなかったことを、痛感
　　　　　　　　　　する回となってしまいました。紙ベースの実験としたものの、スマホやノートPCでも参加可能なよ
　　　　　　　　　　うに設計していく必要があると教員自身は「考え」させられました。来年度以降の課題です。
　　　　　　　　　　　本当に、何事も勉強ですね。
　　　　　　　　　　：22handout-11.pdf へのリンク

　　　 第12回（6/30）： 第10章「会計基準のコンバージェンスの諸問題」
　　　　　　　　　　 　今日は、第10章、すなわち会計基準のコンバージェンス（収斂）を巡る問題を扱いました。
　　　　　　　　　　　 講義の流れは、１．問題の所在、２．歴史的経緯、３．コンバージェンスに対する賛否両論の
　　　　　　　　　　紹介、４．まとめというものです。１．問題の所在では、比較可能性の問題を説明し、事例として
　　　　　　　　　　ダイムラーベンツ社とわが国のレジェンド問題をお話ししました。何れも、会計基準の国・法域間
　　　　　　　　　　での差異がもたらした事件といえるでしょう。続いて、２．歴史的経緯では、先人たちが、コンバ
　　　　　　　　　　ージェンスの達成のためにどのように努力してきたのか、またわが国の現状はどうかということに
　　　　　　　　　　つき、簡単なものですが紹介しました。それから、３．賛否両論の紹介では、とくに「コンバージ
　　　　　　　　　　ェンス」礼讃という動きがあるとするならば、それに水を差すような学界からの冷静な議論につき
　　　　　　　　　　その概要を講義しました。最後に、全体のまとめをしました。教科書にあった「コーディネーショ
　　　　　　　　　　ン・ゲーム」には今年度は（昨年度も）触れませんでした。そのうち、講義前後の課題としてやっ
　　　　　　　　　　ていただこうかなあとは考えています。
　　　　　　　　　　：22handout-12.pdf へのリンク
　　　　　　　　　　【コーディネーション・ゲーム】実験のインストラクション（第10章の補遺）はこちら
　　 　
　　　 第13回（7/ 7） ： まとめ・第12章「制度会計の政治的側面」
　　　　　　　　　　　　コロナ...の感染の拡大（第７波）の気配もしてきました。このため、講義内試験を第15回の
　　　　　　　　　　　最終週にではなく、1回前倒しし、第14回（7/14）に実施することにしました。これに伴い、
　　　　　　　　　　　今回の第13回が前期のまとめの講義回となりました。以下の資料にもあるように、前期にお話
　　　　　　　　　　　させていただいた内容（要点）をコンパクトにまとめてパワー・ポイント（Powerpoint™）を
　　　　　　　　　　　用いて説明しました。最後に、第12章の「...政治的側面」に簡単にのみ触れました。経済的影
　　　　　　　　　　　響がある場合、そこに政治的な（政治的に働きかけたいという）動機の発現があったとしても、
　　　　　　　　　　　何ら不思議はありません。なお、当該第12章にも草稿段階では補論があり、いわゆるアジェン
　　　　　　　　　　　ダ（議題）に関する経済実験が紹介されていました。以下、掲示しておきます。
　　　　　　　　　　　　以上、❶ 実証的な視点、➋ 戦略的相互作用、および ❸ アカウンタビリティ（会計責任・
　　　　　　　　　　　説明責任）を特徴とする本講（およびその元となったテキスト）の今年度の授業を終わります。
　　　　　　　　　　　　聴講いただいた学生さん、どうもありがとうございました。来週の試験に向け、知識の整理
　　　　　　　　　　　をお願いいたします。
　　　　　　　　　　　：22handout-13.pdf へのリンク　
　　　　　　　　　　 【アジェンダ（議題）】実験のインストラクション（第12章の補遺）はこちら
　　　
　　　 第14回（7/14）： 講義内試験（50分・70点満点，30点は平常点： シラバス通り）
　　　　　　　　　　　　予定通りに実施され、都合により受験できなかった数名のかたを除き、今学期の本講義につ
　　　　　　　　　　　いてのすべての授業が終了しました。現在（7月15日）のところ、まだ採点てきてはいません
　　　　　　　　　　　が、それなりに出来は良さそうでした。採点と成績評価が終了しましたら、ここでも問題を掲
　　　　　　　　　　　示することにします。
　　　　　　　　　　　　7月18日（月）、3時間弱をかけ、採点が終了しました。良い出来だったと考えています。
　　　　　　　　　　　　以下が今年度の問題です。解答は、テキストや講義資料を参照すると簡単にわかることから、
　　　　　　　　　　　つけません。22test.pdf へのリンク

　　　 第15回（7/21）： 予備日 … 順調に講義が進展し、シラバス記載の内容を第12回までで終了したこと、さらに
　　　　　　　　　　　　講義内試験に伴う突発的な事象（コロナ...関連含む）の発生の危険性（リスク）をも考慮し、
　　　　　　　　　　　　第14回目の講義日（7/14）に講義内試験を実施し、最終（第15）回については、予備日と
　　　　　　　　　　　　することにし、その旨を6月末日にアナウンスしました。
　　　　　　　　　　　　* 予備日については、講義内試験の未受験者の対応をすることになりました。